誰かから誰かへ、手渡されて広がる。

ブイ・クレスの輪ものがたり

大切な人を想う気持ちが手渡されて、広がっていく。
ブイ・クレスの輪を描いたショートストーリー。

メインイメージ

第1回

主婦恵子さんの朝

 シュンシュンとお湯の湧く音、電子レンジのピーっとなる音、卵焼きのジューツと焼ける音。今朝もキッチンはいろんな音であふれている。時々「遅刻よー!」という大きな声も混ざる。ブイ・クレスを飲みながらのお弁当作りは恵子さんの日課である。飲み始めたきっかけは、好き嫌いの多かった息子を気遣って義母が送ってくれたことだった。
 テーブルではもうとっくに着替えた娘がトーストをかじりながら告げ口をしている。「お兄ちゃんてば、昨夜も夜中までゲームをしていたよ」。


 高校生の息子はやっと部屋から出てきたかと思ったら、ミルクだけ飲んで、寝癖の頭のまま出て行こうとしている。二日酔いの夫は朝ごはん抜き。「はい、お弁当!」と、ふたりを元気づけるように包みを手渡す。
 三人送り出すと恵子さんは、今日初めてゆっくりと座る。そして、残りのブイ・クレスをぐいっと飲み干して、ふうっとひと息。そのあと口角を上げてニコッとする。うれしい日も悲しい日もなんでもない日も必ずそうする。なぜならそれは気持ちをリセットして1日のスイッチを入れる儀式だから。
 さて、今日はいいお天気。食が細くなったというお隣の佐藤さんにも今度教えてあげよう、そう思いながら洗濯にとりかかるのだ。