誰かから誰かへ、手渡されて広がる。

ブイ・クレスの輪ものがたり

大切な人を想う気持ちが手渡されて、広がっていく。
ブイ・クレスの輪を描いたショートストーリー。

メインイメージ

第5回

母からの小包

 奏太がブイ・クレスを知ったきっかけは、母からの荷物だった。彼は大学一年生。地方の大学への入学を機に一人暮らしを始めて半年近くになる。そんな奏太に母は、毎月”救援物資“と称して、食料品やブイ・クレスを送ってくれている。
 新しい生活にも慣れた今、「勉強もバイトもしっかりやってるほうじゃないの、俺」と彼は思う。奏太の周りには、 ”バイトと授業の両立“でぐったりしている学生が五月あたりから増えている。
 今日は日曜日。久々にバイトも休みで朝寝坊を決め込んでいたが、暑さで目が覚めた。呼び鈴が鳴って出てみると宅配便だ。この重さはたぶん米、母からだ。開けてみると、野菜がいっぱい。ほかにも缶詰やらお菓子やら。それにこれ、ブイ・クレスだ。外食が多くてもこれを飲んでいれば「大丈夫!」って思える。
 届いたばかりのブイ・クレスを飲みながらメモを読む。「奏太へ うちでとれた野菜送ります。お盆には帰ること。 母」。短い言葉に込められた母の気持ちを思う。野菜も米もどこででも買えるけど、ありがたい。家にいるときは当たり前だったことが、当たり前じゃないのがこの頃少しわかるのだ。
 そうだ、バイト先の先輩、最近暑くて食欲ないって言ってたな。明日ブイ・クレスを一本持って行ってあげよう。

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