山本さんにブイ・クレスを贈ってくれたのは、学生時代からの親友だった。十五年勤めた会社を辞めて家族とともに故郷に帰ること、そして新しい事業に挑戦することを決めたとき、応援してくれたのが彼だった。それから毎日一本飲み続けている。体が資本だ、最近ますますそう感じるからだ。
冬晴れの朝、実家の畑には収穫に勤しむ山本さんと彼の父の姿があった。専業農家である実家の畑は白菜や大根の収穫シーズンだ。その中には、この土地だけで食べられてきた希少な品種もある。農家の人たちが大切に種を受け継いできたその味を、もっと多くの人に知ってもらいたいと思った山本さんは、農家とレストランを結ぶ事業をスタートさせたのだった。「お前が畑をやる日がくるとはな」、日焼けした顔の父が言う。「意外と好きだったんだけど、畑仕事」、腰を叩きながら山本さんは答える。デスクワークでなまった身体にはなかなかハードな作業だ。七十過ぎた今も現役である父を、山本さんは今改めてすごいと思う。
「あいつも色々考えている。まあなんとかなるだろう」。父がそう言っていたことを山本さんは最近母から聞いた。「昔から父は、自分にも妹にも好きなことを伸び伸びやらせてくれた」。収穫作業を続ける父の姿を見ながら山本さんはそう思う。「妹は元気にやってるだろうか。仕事と子育ての両立はたいへんだろうが、弱音は聞いたことがない。そうだ、あいつにもブイ・クレス送ってやろう」。