誰かから誰かへ、手渡されて広がる。

ブイ・クレスの輪ものがたり

大切な人を想う気持ちが手渡されて、広がっていく。
ブイ・クレスの輪を描いたショートストーリー。

メインイメージ

第6回

なんでもないけれど特別な一日

 浩二さんがブイ・クレスを初めて飲んだのは、まだ大学生のときだった。就活疲れで、グッタリしていた彼に、バイト先の後輩が実家から届いたブイ・クレスを一本くれたのだ。
 あれから無事に就職、結婚して子どもも産まれた。責任ある仕事も任されるようになった。浩二さんは今、家へと向かう電車に揺られている。珍しく早く仕事が終わって、いつもより早い電車に乗れた。新しく任されたプロジェクトは、ようやく出口が見えるところまできた。しかし、まだ問題がいくつかあって、電車の中でも、駅から家に向かう道でも仕事のことが頭から離れない彼だった。
 「パパ〜、おかえり〜!」。玄関で彼を迎えたのはパジャマ姿の娘だ。「ただいま。まだ起きてたの〜?」と笑顔で答える彼に、「はい、これ!」と娘はブイ・クレスを差し出す。「幼稚園で描いた絵をどうしても見せたいって、起きてたのよ」。妻の説明によると、その絵はパパと自転車の練習をしているところだそうだ。
 風呂上がり、浩二さんは娘の絵を眺めながら、このところ休みは寝てばかりで、ろくに遊んでやれなかったことに気づく。そして娘の寝顔に向かって小さな声で囁いた。「土曜日、パパとママと公園に行こうな」。
 それからふと、自分と同じ忙しい日々を過ごしている同僚のことを思うのだった。「そうだ、佐藤さんにもブイ・クレスを教えてあげよう」。