誰かから誰かへ、手渡されて広がる。

ブイ・クレスの輪ものがたり

大切な人を想う気持ちが手渡されて、広がっていく。
ブイ・クレスの輪を描いたショートストーリー。

メインイメージ

第7回

美来さんが走る理由

 美来さんにブイ・クレスを教えてくれたのは、会社の同僚の鈴木さんだった。会議が長引いて昼を食べ損ねていた彼女に「食事が不規則なときとかにいいよ」と渡してくれたのだ。
 久々に予定のない日曜日。美来さんは近所の公園を走っている。週2回のジョギングは彼女の長い間の習慣だけれど、最近は忙しくてサボりがちだ。今日も体はどよんと重かったが、走り出せばそのうち頭が空っぽになってスッキリするはず。
 しかし今日は少し違った。仕事のことが頭から離れないのだ。息も上がってきたので、美来さんは走るのをやめてベンチに座った。
 「私、やっぱり疲れて見えたのかな、鈴木さんがコレくれるなんて」ウエストバッグから出したブイ・クレスを飲みながら思う。子どもたちの声がするほうに目をやってみると、家族連れが遊んでいる。カップルもいる。お年寄りのご夫婦もいる。みんな一見幸せそうに見えるけど、それぞれ悩みや心配事を抱えているのかもな、とふと思う。今回のプロジェクトの責任が重くて、ひとりで押しつぶされそうになっていたけど、気遣ってくれる仲間がいるじゃない、私にも。
 「ゆっくりでいいや。自分のペースで」。声に出してそう言うと、美来さんはまた走り出す。「前回完走できなかったフルマラソン、また挑戦しようかな。そうだ、朝ラン仲間にも今度、ブイ・クレスを教えてあげよう」。そう思いながら少しピッチをあげるのだった。