誰かから誰かへ、手渡されて広がる。

ブイ・クレスの輪ものがたり

大切な人を想う気持ちが手渡されて、広がっていく。
ブイ・クレスの輪を描いたショートストーリー。

メインイメージ

第8回

かけがえのない時間

 本庄さんにブイ・クレスを教えてくれたのは朝ラン仲間だった。秋口に体調を崩した彼にすすめてくれたのだ。
 今日は大学時代の友人たちとのキャンプ、という名の「帰らなくていい宴会」。それはアウトドア好きが集まるサークルで、卒業後十年経った今年の集まりは、都心から近い海沿いのオートキャンプ場が会場だ。
 街の夜景を見ながら缶ビールで乾杯したら、誰もが十年前の気持ちに戻って、食べて飲んで笑う至福の時間だ。夜が深まるにつれ話も少しずつ深くなる。
 明け方、喉が渇いて目が覚めた本庄さんは、ブイ・クレスを手に海を見ていた。誰かがゴソゴソ起きてきて隣に座る。親友の山本さんだ。「何それ?」と山本さん。「あ、これ? 飲むサプリ。毎朝飲んでるんだ」。ふたりはしばらく黙ってバラ色に染まる空を眺めていた。「帰ろうと思ってるんだ、故郷に」。山本さんがポツンと言う。地方都市で小さな商店をやっている実家を拠点に、新しい事業を起こす。そんな夢をいつか話してくれたことがあった。挑戦することをやめない友の姿はいつも刺激をくれる。
 応援してるからな、頑張れよ。そう言う代わりに本庄さんは言う。「ブイ・クレス送るよ。遊びに行くからな」。山本さんは海を見たまま「うん、待ってる。ありがとな」と返すのだった。